つけに茂みのなかへ入ってゆくと、ふいに、眼のまえに薄赤いものが現われた。
「あっ、何だ。サア、坊や、はやくオンブしな」
前方でも、ザクザクと草を踏む音がする。やがて、ベゴニアの藪のなかへ蹲んだその生物を、キューネがぐいと引きだしたのである。とたんに、彼はアッと叫び、思わず離すまいと双手に力をこめた。それが、人間も人間、うら若い娘だった。
「Papalangi《パパランギ》、ああ、Papalangi《パパランギ》」
とその娘が絶え入るような喘ぎをする。
Papalangi《パパランギ》 とは、サモア語の白人という意味。みれは、熟れかかった桃のような肌の紅味、五体はタヒチ島土人ときそう彫刻的な均斉。思わず、キューネがほうっと唸ったように、まさに地上の肉珊瑚、サモア島の少女《トウボ》だ。
「君、そう怯えなくたって、何もしやしないよ。だが、どうして君一人が、この Malekula《マレクラ》 にいるんだね。サモアだろう※[#感嘆符疑問符、1−8−78] サモアの娘がどうして此処にいるの」
娘が、キューネに安心するまでには長時間かかった。もし愛らしいハチロウがこの白人のそばにいなければ、
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