つぼかずら』のひじょうに巨きなものがあるという話だったが……。そうだ、一番それを使って、この沼をわたってやろう」
 やがて、ほそい藤蔓のさきに小鳥をつけて飛ばしているうちに、キーッという叫び声とともに、ぐっと手応えがした。たしかに、「うつぼかずら」の大瓶花が小鳥をくわええたにちがいない。とそれをキューネが力まかせに引くと、一茎の攀縁一アール(百平方米)にもおよぶと云う、「|大うつぼかずら《ネペンテス・ギガス》」がズルズルと引きだされてくる。まもなく、そうして出来た自然草の橋のうえを、二人が危なげに渡っていたのである。いよいよ、目指す、“Nord−Malekula《ノルド・マレクラ》”
「坊や、ここが当分、私たちのお宿になるんだよ」
「日本かね、オジチャン」
「いや、日本へゆく道になるのさ。坊やが、ここで幾つも幾つもおネンネしていると、そのうちにお迎いの船がくるよ」
 そして、キューネの気もハチロウの気も落着いた。みれば、果物も豊富、魚介も充分。ここから、時機がくるまで伸々と過せると、キューネもほっとしたのであった。
 しかし、そうして何事もなかったのもたった一日だけ……。翌朝、果実を見
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