両側は、いわゆる|多雨の森《レイン・フォレスト》、パプアの大湿林。まい日七、八回の驟雨があり、ごうごうと雷が鳴る。その雨に、たちまちジャングルが濁海と化し――独木舟《プラウー》が、大|羊歯《しだ》のなかを進んでゆくようになる。わけても、この皇后《カイゼリン》オウガスタ川はおそろしい川で、鰐や、泥にもぐっている“Ragh《ラー》”という小鱶がいる。
ほとんど哺乳類のいないこのニューギニアは、ただ毒虫と爬虫だけの世界だ。やがて、独木舟《プラウー》を芋蔓でつないで、いよいよハチロウを負い“Niningo《ニニンゴオ》”の湿地へとむかった。
そのあいだの密林行。繁茂に覆われた陽の目をみない土は、ずぶずぶと沢地のようにもぐる。羊歯は樹木となり巨蘭は棘をだし、蔦や、毒々しい肥葉や小蛇ほどの巻鬚が、からみ合い密生を作っているのだ。その間に、人の頭ほどもある大昼顔が咲き鸚鵡や、巨人《モルフォ》の蝶の目ざめるような鮮色。そしてどこかに、極楽鳥のほのぼのとした声がする。やがて、百足《むかで》を追い毒蛇を避けながら、“Niningo《ニニンゴオ》”の大湿地へ出たのだった。
そこは、幅約半マイルほどの、
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