うに開けたような気がし、
「だけど、坊やはジャッキーちゃんのお家へゆくんじゃないのかね」
「うん、だけどね。ジャッキーちゃんはとっても威張るんだもの。あたいを、いつも慾ばりの悪殿様にして、ジャッキーちゃんの海賊が退治にくるんだもの。だけど、あたいのお国の日本なら虐められないだろうね」
 こんな、頑是ない子が郷愁をおぼえる哀れさ。それは、やはりキューネも同じことである。オジチャンも、どれほどドイツへ帰りたいか知れないよと、口には云わないがいきなりハチロウを抱きしめ頬ずりをしながら滂沱と涙をながした。
「ゆこう坊や。坊やのお国の日本へゆこうよ」
 そうして二人は、安住の地へと漂泊をはじめたのであったが……それには、まず行きようもないと云う秘境が必要だ。ところが、独領ニューギニアの最北端に、“Nord−Malekula《ノルド・マレクラ》”という、荒れさびた岬がある。そこには、岩礁乱立で近附く舟もなく、陸からの道には“Niningo《ニニンゴオ》”の大湿地があり、じつに山中に棲む矮小黒人種《ネグリトー》さえ行ったことがないと云う。かれは、まず皇后《カイゼリン》オウガスタ川を遡っていった。
 
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