父母の懐ろから拉しこられたにも拘わらず、ベレスフォードの子はかるい寝息をたてている。この、無心神のような子になんの罪がある※[#感嘆符疑問符、1−8−78] いかに、復讐とはいえどうして殺せようと、一度理性がもどれば飛んだことをしたと急にキューネはその子が不憫になってきた。
 どれどれ、すぐ坊やのお家に帰してやるよ――と、もともとキューネは子供好きだけに、毛布をあげてそっと顔を見ようとした。
 夜が明けかかり、星影がしだいに消えてゆく。当て途なく流れてゆくこの独木舟《プラウー》のうえにも、ほの白い曙のひかりが漂ってきた。すると、いきなりキューネがハッと身を退くような表情になり、
「ちがう、こりゃ、ベレスフォードの子じゃない」
 とさけんだ。
 白人ではない。五歳ばかりの、黒い髪に琥珀色の肌。くりくり肥った愛らしい二重※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]。この、意外な東洋人の子におどろいたキューネは、がたがた独木舟《プラウー》をゆすってその子を起してしまった。
「オヤッ」
 というようなまん丸い眼をして、しばらくちがった周囲に呆気にとられていたその子は、やがて、しくっしくっと泣きじ
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