鯰
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)脅《おど》かし
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+夷」、第3水準1−94−41]
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上
私は、鯰の屈託のない顔を見ると、まことに心がのんびりとするのである。私もあんな顔の持ち主に生まれてくればよかったな、と思うくらいである。
小さな丸い眼、大きな口、下顎の出た唇、左右に長く伸びた細い髭。あの髭は人間として真似ようもないが、あの顔全体から受ける印象は聖賢の風格を持っている。私の古い友人に中井川浩という茨城県選出の代議士があった。この人物の顔は、実に鯰によく似ている。下顎が出て、口の大きいところ、眼の可愛らしい出来具合。それが彼の顔が赤茶でなく、もし泥青色であったら、先祖は鯰であったかも知れぬと思うほどである。そして中井川は気持ちが素直に、ものにこだわりのない大きな風を持っていた。
日本では鮎と書いてあゆ[#「あゆ」に傍点]と読ませるのであるが、中国では鮎という文字は、なまずを指
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