だすのであるが、これはひどく手数がかかる。
鯰は、五、六月の田植え頃に産卵するのである。田圃に田植えの準備がはじまって、苗代水が流れだすと鯰は大きな流れや深い淵から、細流や田のなかへ遡り込み、水藻の葉などに卵を生みつける。卵は一腹に五、六百万粒ほど入っているといわれる。鱈の卵に劣らぬほどの数を持っているのである。鱈の卵が完全に艀化し、完全に幼魚が育ったならば世界の海は三年間に、鱈で一杯になるといわれているが、鯰の卵も完全に一尾残らず艀化し、生育したら日本国中鯰だらけになって、足が辷って歩けないようになるかも知れない。
だが、鯰の卵はおいしくない。おいしくない点では※[#「魚+才」、186−10]《さい》の卵と淡水魚中の双壁であるといわれている。
底本:「『たぬき汁』以後」つり人ノベルズ、つり人社
1993(平成5)年8月20日第1刷発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2006年12月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボラン
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