ところ、こはそもいかにこれ大鰓魚也とあった。つまり、大鯰であったのである。
 鯰の化け方の道化ているところは、陸の狸公に似ているではないか。
 日本の鯰は、鼻下に二本髭を蓄えているだけであるけれど、北満洲の齋々哈爾《ちちはる》の北を流れる嫩江には、三本髭の鯰がいる。一本は顎の下に長く生えているのである。三本ひげを蓄えた顔は、中国の大人《たいじん》の風貌《ふうぼう》によく似ている。そして、顔の造作からだの格好に至るまで、日本の鯰に寸分違わぬのであるけれど、実はこれは鯰ではないのである。鱈であるのだ。太古、海中であった北満地方が地殻の変動で岡になったとき、海水と共に外洋へ逃げるのを忘れた鱈は、ついに山の渓流に取り遺されて、北満の淡水に陸封されることになったのである。顔や、からだが同じでも、鱈はやはり鱈で、北海道や樺太の海でとれる鱈と同じに、北満の鱈も鯰に化けたとはいえ、三本髭のまま、先祖の昔を偲んでいる。
 この鯰鱈は、蒲鉾に作ると素敵においしい。私も一昨年、齋々哈爾へ旅したときこの蒲鉾をご馳走になったが、最初はなにを材料にしたものか知れぬほど、舌鼓をうったのである。日本でも、昔から鯰を蒲
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