て、二十数尾の漁果を収め、戸倉の宿へ帰って、釣った山女魚や岩魚の腹を割いてみた。そして、胃袋を開いて細かに検すると、青虫の骸《むくろ》がその山女魚や岩魚の胃袋にも、数多く入っていた。
 初夏の渓流魚は、殊のほか青虫を好むものだから、明日はこの餌を捕ってやってみよう、という考えを起こしたのである。
 翌朝、水楢の林へ行った。けれど、水楢の枝は高いところにあって、手が届かない。やむを得ないから、手の届くところの青葉の草むらへ分け入って、青虫を捜しまわった。しかし保護色を持っている青虫は、一匹も私の眼にとまらなかった。青い葉に、青い小さな虫が這っているのであるから、発見できぬのが当たり前であろう。
 その日は、やはり川虫とみみずで釣った。
 家へ帰ってきてからも、いろいろ考えた。青虫で渓流魚を釣れば、必ず成績があがるに違いない。なんとかして、手に入れる方法はないものかと、思案したのであった。
 ところが、ある朝、家の東方にある畑へ莢豌豆《さやえんどう》の実を採りに行って、蔓から豆をもぎとっていると、その葉に一分五厘から二分くらいの青虫が這っているのを偶然にも発見したではないか。
 なおも仔細
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