設、井戸を新しく掘るなど、いろいろ準備に忙しい。
榛名山の南麓は近年、相馬ヶ原の演習場や予備士官学校などができて、あたりに硝煙の臭いが強く、殊に養蚕の発達から箕輪町付近の山林は開墾されて、一望遮るもののない桑畑となったけれど、その辺は有名な真影流の開祖、塚原卜伝の師、つまり剣道の神さまと称される上泉伊勢守が城代として住まった箕輪城の趾であったから、私の少年のころまでは狐、狸、※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]、雉子、山鳥などというのは、動物園か養鶏場などにも棲んでいた。
ところで、箕輪町では箕輪城趾の近くへ、受け入れ学童の合宿場を建て、井戸掘人夫を入れて盛んに工事を進めて行った。この地方は、土壌が深い傾斜であるから、なかなか水が沸いてこない。
第一日は、一丈ばかり探ったところで日が暮れたから、人夫らは工事を中止したのである。二日目は、暁暗の頃から人夫らは工事場へやってきた。
そして、しばらく榾火《ほたび》を焚いて一服すっているうちに、東が明るくなってきたところが、人夫らが掘り掛けの井戸を覗いていると、薄暗い底の方へ、なにか黒いものが動いているではないか。
大騒
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