いる。
 いずれも、怪しきことに思っていると、一人の武士が城の隅の叢《くさむら》のなかで異様なものを発見した。それは一疋の大狸、しかも冑を着て倒れているのである。手も足も、頭も傷ついて息絶え絶えのありさまだ。
 武士がその傍らへ走り寄ると、狸は苦しげな声で自分は年古くこの城のなかに棲んでいる。恰《あたか》も、城の将兵から飼われているのも同じようであった。ところが、昨夜の戦いで城方が甚だまずい。この分では、落城に及ぶかも知れぬと知ったとき、傍観するのに忍びなかった。そこで、多数の将兵に化けて出で、力の限り闘って、このように深い手傷を負ったけれど、北条武田方を敗走せしめたのは本望であった。これで、多年の御恩返しもでき、無事に極楽へ行けましょう。こう、苦しいなかから物語り終わると、息を引き取ったという。

  八

 これは、それから二十二、三年過ぎてからの話である。
 上杉が退いたあとの厩橋城を支配したのが、瀧川一益であった。一益は、天正十年北条氏政のために敗られて、西の国へ走ったのである。そのあとは山上美濃守、織田彦四郎、松田兵部大夫などが引き続き北条の城代として厩橋にいた。
 秀吉が二
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