では昔から、狸と貉とは別物にしている。狸を殺してはいけないちうことは知っているけれど、貉を殺してはならぬちうことは知り申さぬ。と、いうのである。
 そこで、裁判では狸と貉の区別について専門家の意見を求めたところ、やはり駐在巡査の主張した通り、狸と貉は同一の動物であって、ところにより呼び名が異なるだけであるという証言を得たのである。よって遂に、百姓は国法により罰せられたという新聞の記事を見た。
 それ以来、私は狸と貉を同一のものと考えるようになったのだが、私の老父が私の幼い頃、私らの子供に化けものばなしをするとき、貉の化け方は、甚だ大|袈裟《げさ》で雲つくばかりの大入道となり、人間の胆を潰すのを見て喜ぶ。しかし、狸の化け方は一体に小柄で、一つ目小僧のような少年となり、時に人間に正体を見破られて逃げ出すという茶目気分がある。と、聞かせていたので、私は幼いときから両者を別ものと思ってきたわけである。
 ※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]《あなぐま》を指して、狢と呼ぶ地方もある。曲亭馬琴の里見八犬伝では、犬山道節が足尾庚申山の、猫又を退治する条で、※[#「豸+權のつくり」、第4
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