越後と出羽境の狸の肉に見参するのは、これがはじめてだ。なんとか上手に調理して、食べたいと思う。
動物図鑑によると、狸は本州、四国、九州に産するとある。体長は五百三十ミリ内外、尾の長さは百七十ミリ内外で、体は狐よりも小さく、前肢も後肢も短い。
毛は概ね暗灰色で、密生している。体のところどころに黒い毛が混じっていて、両眼の下は黒褐色を呈する。吻と、眼の上部と、喉などは少し白い。そして、額は短いのである。
山や野に穴居して夜になると這いだして残肴や昆虫、蠕虫などを漁《あさ》り、時には植物質のものを食うこともある。六、七月頃、子を産む。地方により、狢ともいう。
と、書いてある。私は、子供のころ狸と貉《むじな》は別物と思っていたが、今から四、五十年前、栃木県に狸と貉の裁判があって、その正体がはっきり分かったのである。
日本では、狸の妊娠から分娩季を禁猟にしている。ところが、野州のある百姓が、貉を捕って殺した。それを、村の駐在巡査が発見して、貉も狸も同じ動物だ。そこでつまり、貉を殺せば狸を殺したことになるというので告発した。
この事件が裁判に付せられたところ、百姓が述べるには、わしの村
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