ると答えた。そうか、だがわしは何処が目あてとも知れぬ旅僧で、草の衾《ふすま》、石の枕を宿としているのであるから、折角の頼みではあるけれど、そなたを弟子にして伴い歩くことはでき申さぬ。と因果を含めた。
 しかし、少年の僧は、いつかな正通和尚の言葉をきかない。たって、弟子にしてくだされ、仏の慈悲と思し召して私の念願を叶えてくだされと、袂に縋るようにするので、和尚はこれに負けてしまったのである。
 それから、老僧は若僧を伴って、あの里この里と歩いた末、上州館林の地へ辿りついた。老僧は、館林の地がひどく気に入ったらしい。
 この地に、一寺を建立したいと守鶴にいったのである。ところが守鶴はそれに答えて、いえ館林よりも、もっと景勝の地が、ここから余り遠くないところにありますから、そこになすっては如何ですといって、正通和尚の先に立って歩いた。
 和尚は、子供でありながら妙なことをいうと思いながら歩いて行くと、いま茂林寺のある堀江の地へ入ったのである。見ると、なるほど館林よりも景勝の地だ。
 艮《うしとら》の方角には池があり、あたり樹林が茂って、寺を建て永く御《み》仏に仕えるには、まことに恰好な環境で
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