滝も凄寒《そうかん》を催す眺めである。
水上温泉から二里下流の小松に、東電の発電所が竣成したのは、随分古い昔である。小松に発電所ができてからは、天然鮎ではその放水路まで達するのが、最も長い旅を続けたことになる。
私は、月夜野橋の下流の瀬が、竜宮の崖に突き当たった落ち込みで、百匁以上の鮎を釣ったことがある。ついに取るには取ったが、私はその鮎と囮鮎を入れてしまうと、河原に尻餅をついて長い間、溜め息を吐いていた。
後閑の対岸で、本流へ合するのは、谷川の渓水を集めて下りきたった赤谷川である。赤谷川は、水温が割合に高いために、後閑まで旅してきた本流の鮎は、この支流へは、遡上しなかった。
赤谷川は、下流から中流へかけては、山女魚《やまめ》専門の川である。上流の谷川岳の麓まで分け入れば、岩魚《いわな》ばかりであるが、近年奥利根地方は、温泉郷が賑やかになったために、渓流魚に値打ちが出てきたので、職業釣り人は腕によりをかけて釣るようになった。そんな次第で赤谷川の渓流魚は、四月一杯くらいで殆ど釣り絶やされてしまう。
四
大きな姿と、味の立派であることでは日本一の鮎を育てる利根川。旅の釣
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