ったか知れない。後閑地先へ足を止めたとき、鮎は頑健そのものになっている。身の上八、九寸、四、五十匁から百匁近くまで育っている。そして、野鯉のように細身で、筒胴の姿である。胴が筒と同じに細くなっていなければ、滝なす潺湍《せんたん》は乗り切れない。
肉がしまっている。香気が高い、背の色が濃藍だ。敏捷であるのと、体力的であるのと、闘争心の強いのと、強引であるのとは、あたかも密林に住む虎か豹にたとえられよう。
掛かった。釣り人は、まず足許に注意せねばならない。でないと、踏んだ石の水垢に辷《すべ》ってでんぐり返る。囮鮎も、掛かり鮎も、竿もめちゃくちゃだ。足の速力が、鮎の逸走の速力に伴わねば、道糸を切られてしまうのである。釣り人は、まるで夢中だ。下流へ走りに走って、ようやく手網へ抜き取ったあとでも、しばらく心臓の鼓動はやまない。そして、この辺は水源に近く雪橋から滴り落ちる水も、長い時間太陽の恵みを得ていないから、温度が低いのである。土用の最中でも、水へ立ち込むと、ひやりとする。だから、鮎が丈夫なのだ。
月夜野橋から上流には西海子《さいかち》前、長どぶ、病院裏、地獄などの釣り場があるが、地獄の
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