の魚の振舞が、手に響いてきた少年の感触は、忘れようとして忘れられぬ。
 父は、健康の関係から大して友釣りを好まなかったけれど、大きくなると私は友釣りを習った。吾妻川の毒水のために、私の村あたりは面白い友釣りがやれなかったので、私は村から五里上流、利根川と吾妻川との合流点から上流へ遠征したのである。合流点から上流は名にしおう坂東太郎の激流と深淵の連続である。白井の簗《やな》、雛段、樽、天堂、左又、宮田のノドット、竜宮方面へと釣り上がって行った。
 とりわけ、宮田のノドットには大ものがいた。一町も下流へ走らねば、掛かった鮎が水際へ寄ってこなかった。
 猫滝、芝河原、長つ滝、円石、桜の木方面の釣興も素敵であった。初心のころ、円石の流心で大漁したことは、私の釣りの歴史に特筆したい。芝河原では、不漁のために、鮎の習性について、いろいろ教えられた記憶がある。猫滝は凄い瀬だ。
 さらに上流、鳥山新道から棚下、綾戸、中河原、岩本地先などの上流へ遠征する頃には私の友釣り技術もよほど上達していた。綾戸の簗のしも手では、激流に脚をさらわれて、命拾いしたことがある。中河原の岸壁の中腹を、横這いに這うときは、恐
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