鮎の群れは、大堰堤の下へ集まって、怨めしそうに[#「怨めしそうに」は底本では「怨めしさうに」]、高い高いコンクリートの壁を見あげた。
 一群のうち、からだの頑丈な、もう十五、六匁に達した若ものは、魚梯から僅かにこぼれ落ちる水の中へ、突っ込んでいった。そして、とうとう魚梯を登りつめて、大堰堤の上へ満々と溜まった淵へ躍り込んだ。これは、並み大抵の労苦ではない。
 この勇敢な、体力的な若鮎は、一群のうちそう大した数がいるものではない。多くの力の弱い意気地がない連中は、自分たちになし能わざるを観念して、すごすごと下流の方へ引き返していった。そして、手頃の石について水垢を食って、育った。
 魚梯を登っていった連中は、昔と同じように堅肉に肥えて、強い力で釣り人の鈎に掛かった。しかし、そんなことは二、三年で終わってしまった。次第次第に、川の条件が悪くなってくると共に、海からくる鮎の数が減っていった。魚梯から落ちる水が、雀の涙ほどに量が少なくなっていったからだ。それ以来、堰堤から上流は、まれにしか天然鮎の姿を見ぬようになったのである。堰堤から下流も、悲惨な状態を呈した。堰堤からのこぼれ水では、吾妻川の
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