、ここには釜焚きがいて掃除するから、掃除屋の手にはかけないのである。しかし、溝の方は釜焚き人夫が手を出すのを嫌うから、掃除屋の仕事となっていた。
 溝掃除は、煙突掃除よりも仕事が汚い上に骨が折れるから、賃銀が高い。でも、いかに高いといったところで、一仕事で一円以上というのは、めったにない。普通二、三十銭を頂戴する溝掃除が最も多い。
 煙突掃除や、簡単な溝掃除は一人で行くことになっているが、大きな溝掃除となると総動員で行く。
 ところで、以上のような賃銀であるけれど、この賃銀のうちから親爺に頭をはねられ、また難工事は頭割りとなっているから、早暁から夕方まで働いたところで、一日金一円の収入を得るというのは甚だ困難であると、二人の先輩と親爺が代わる代わる私に説明した。
「それでも、お前はやる気があるのかい」
 年長の方の先輩が私に問うた。
「遊んでいて、ひもじい思いをしているのより結構だ」
 と、私は答えたが、いかに浜口内閣の不景気政策のおかげとはいえ、煙突一本掃除して金五銭とは情けないと思った。

  三

 私は、その日から二人の先輩の後について、仕事見習にでかけた。だが、たかが煙突掃除
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