やれるかやれねえか、あしたから來てみるがいい」
二
私は、掃除屋の親爺を救いの神だと思った。しかし私は、家内には仕事が見つかった事だけ話し、その仕事が何であるかは語らなかった。
翌日早く、絆纏、股引、地下足袋を身につけ、頭へは寒鮒釣りに行ったとき使ったスキー帽の古いのを冠って出かけた。
「案外格好ができていらあ、これじゃやれるかも知れねえ」
親爺は、はじめてにやにやとした。
「さあ、なんでも言いつけてくんな、どんな仕事でもやるよ」
と、私は大きく出た。
この親爺は、この都会の掃除屋仲間では最も古顔で、出入りの客筋を数多く持っていた。私には二人の先輩がいた。一人は四十格好の痩せ形の男で、狡猾《こうかつ》らしい人相を持っていた。一人は、三十二、三歳か骨格の逞しい土方上がりでもあるらしい好人物である。親爺は、この二人を連れて毎日、出入先の煙突や溝を掃除して歩いていたのである。そこへ、きょうから私という新米が一人罷り出たわけである。
勝手元や風呂場にある直径四寸の煙筒を一本掃除して手間賃が金五銭。五寸の煙筒が六銭、七寸が十銭。風呂屋や製糸工場には大きな煙突が立っているけれど
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