ころで、清掃人夫をやりたいというのは誰だい」
親爺はこういってから、私の姿を頭から足の先まで茶色の瞳でながめおろした。
「私です」
「なんだお前か、お前みたいな生白いのには仕事が向かねえ。もっと頑丈な、節くれ立った人間でなけりゃ駄目だ」
私は、そのとき最後に取って置きの銘仙の絣《かすり》を着、駒下駄をはいていたのである。
「溝や煙突掃除くらい私にもやれますよ」
「駄目だ、そんな細い指の人間にゃやれねえな」
「でも、やらせみておくれ、必ずやりますから」
「どうかな――おい、お前にはあの道具が扱えるかい」
といって親爺は、土間の隅の方を指した。土間の隅には、割り竹の先に結びつけてある煤によごれた黒い大きな丸い刷毛や、溝掃除に使う鍬、鶴嘴、長い竹箆などが散乱していた。
「地下足袋も、絆纏も、股引も持ってます。こんな細い腕でも、ついこのごろまで力仕事をやっていたんだから」
私は、新聞配達しているとき、新聞社から貰った印絆纏が、梱《こり》に入れてあるのを想いだしたのである。地下足袋も股引も、新聞配達には付き物であった。
「縞麗な仕事じゃねえよ、それに手間賃もひどく安いよ。それが承知なら、
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