こで想い出すのは公魚《わかさぎ》である。公魚は氷魚と同じにこれから冬に入って季節となるが、東京市民の口に入るものは、多く土浦の霞ヶ浦産である。白銀色に美しいところはあるけれど、泥臭い上に渋味が強く至味というわけにはいかない。俗にチカキという青森県や北海道方面からの乾公魚は一層渋味が強くて惣菜にもならぬほどである。ただ、形の大きいところが取柄《とりえ》であろう。
と、いうわけで霞ヶ浦産でも、東京付近の中川、江戸川、荒川などで釣れた公魚を上等の食味を盛っているとは思わなかった。ところが、昨年の初冬から釣れはじめた榛名湖の公魚を食べてみて、なるほど公魚とはおいしい魚であるということが分かったのである。やはり他の魚と同じに、棲む場所によって味に変化が生まれるものと見える。赤城の大沼は水深八十|尋《ひろ》、凄い紺碧を湛えて温度が低過ぎるため、舌触りに荒い感じを持つが、榛名湖は水深十七、八尋で深い方ではなく、明るい淡青色で味がやわらかい。茶を煎じて熟すに適《かな》う。なお底石が細かい火山の噴出物で四時外輪山から湧水を注ぎ込み、餌の藻蝦《もえび》が豊富であるから他の不純物を口にしないので公魚の味が
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