姫柚子の讃
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鰍《かじか》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)鰍|膾《なます》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「竹かんむり/奴」、第4水準2−83−37]《ど》
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このほど、最上川の支流小国川の岸辺から湧く瀬見温泉へ旅したとき、宿で鰍《かじか》の丸煮を肴《さかな》に出してくれた。まだ彼岸に入ったばかりであるというのに、もう北羽州の峡間に臨むこの温泉の村は秋たけて、崖にはう真葛の葉にも露おかせ、障子の穴を通う冷風が肌にわびしい。私は流れに沿った一室に綿の入った褞袍《どてら》にくるまり、小杯を相手として静かに鰍の漿《しょう》を耽味したのであった。
折りから訪ねてきた一釣友に、この小国川は鮎ばかりでなく鰍にも名のある渓であるときいた。小国川は昔、判官義経主従が都を追われ、越路をめぐって羽前の国の土を踏み、柿色の篠懸《すずかけ》に初夏の風をなびかせて、最上川の緑を縫った棧道をさかの
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