ざし》を現わすのだ。生殖腺はからだの栄養を吸収して肥え育ってゆくのであるから、腹の卵子が大きくなればなるほど、鮎の肉は痩せてゆくのである。肉痩せ、性に疲れた鮎がおいしかろうはずがない。
鮎は、川筋やその国の気候風土によって少しの差はあるが、一体に六月中旬から八月中旬までの夏のさかりに漁《と》れたのを、至味としているのである。初夏の鮎は水鮎と称え、香気は高いけれど、肉にこくがない。されば、私ら釣り人は夏のさかりに、好んで鮎を釣るのである。さりながら、私は名ある鮎の川を耳にすれば、季節を忘れてそこへ旅する慣わしを持っている。このたびの、小国川への釣り旅もそれであった。
鈎に掛かる鮎はいなかったが、簗《やな》に落ちる鮎はいた。簗に落ちる鮎を手にしてみたところ、陽気のためかまだ肌の艶が若々しかった。羽州の人々が自慢するように、頭が小さく胴は太く長く立派な姿であったのである。ちょうど、私がかつて世に紹介したことのある飛越国境に近いおわら節が有名な八尾町の奥、神通川の支流室牧川の鮎に似て、良質の岩石から湧く麗水に育ったかを思わせた。だが、既にもう秋の鮎である。あの、味品にまとう香気が抜けていた
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