いうであろうと考えて、興味をもって村上さんの顔を見た。
「お待ちどうでした――それでは、明日から出社してください。えーと出勤時間は十時前後でよろしいでしょう。それで所属ですが、とりあえず社会部にして置きましょう。分かりましたね、明日からですよ。では、失礼」
 それだけいったら、村上さんは室から出て行ってしまった。
 私は、あっけに取られて、ぼんやりしたのである。新聞社というところは、なんと不可解のものである哉と思った。
 私は喜んで、途中で想いだし笑いをしながら丸の内の野っ原を歩いて、駿河台の南甲賀町の下宿へ帰った。

  二

 入社してみると、社長が箕浦勝人、社主が三木善八、主筆は須崎默堂、編集局長村上政亮などという偉い人物ばかり。中堅から少壮記者には五、六年前まで京成日報の社長であった高田知一郎、いま進歩党の幹事長である田中万逸、元AKの放送部長煙山二郎。趣味方面には相撲の生駒※[#「皐+羽」、第3水準1−90−35]翔、美術の佐瀬酔梅などという錚々たる記者がいて、なにがなんだかただ眼が眩んで仕事のことなどさっぱり分からない。
 現在小説を書いている矢田挿雲、野村胡堂、料理屋通の
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