「よし分かった、それでいい――ところで君の性質は、短気の方ですか、気永の方ですか」
 と、質間するのである。これには困ってしまった。私は、そのときまでかつて一度も自分が気短であるか気が永い人間であるか、考えたことがなかったのである。だが、なんとか答えなければならぬと思ったから、
「私は、生来気永であって気短の人間であります」
 と、答えたのである。あまり頓智に乏しい、人を愚にした答えであったけれど、その場合私として、これ以上の才覚が浮かばなかったのである。そこでもう、われながらこの人物試験は落第であると観念した。
「ああそうですか、分かりました。ちょっと待っていてください、入社していただくかどうかを直ぐご返事しますから、ちょっと待ってくださいよ」
 こういって村上編集局長は応接間からそとへ出て行った。私は当てにしないで待っていた。待っていろというのに、挨拶もしないで帰るのは失礼であると思ったから、とにかく村上編集局長が、再び応接室へ現われるのを待っていた。すると、十分間もたたぬうちに、村上さんはひょこひょこと応接室へ入ってきた。
 私は、諦めていたのであるが、それでもなんと村上さんは
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