やむを得ない。然らば、一人で行って試してみようと決心した。その頃、ちょうど故郷から老父が訪ねてきていた。そこで、このことを相談すると、それだけ説明をきいていれば、自分の思案でやれぬことはない。そこが釣り師の勘というものだ。わしも、いっしょに行ってやるから、きょうこれから直ぐ那珂川へ行き、大いに大鱸を釣ってやろうじゃないかという次第になった。
 釣り場は、水戸市から一里ばかり上流の国田渡船場の上手の落ち込みである。現在の水戸上水道の水揚げ場から、七、八町上流だ。竿二本と仕掛けを作り上げ、ひる少しまわったころ釣り場へ着いた。教えられた通り渡船場の付近の捨石や沈床の間を覗いてみると、川蝦が静かに泳いでいる。鳥の羽根で手網へ追い込んだところ、三時間ばかりの間に五、六十尾の蝦が捕れた。
 まず、一服である。父子二人で河原の砂の上へ腰を下ろして釣りの楽しさを話していると間もなく夕方の四時近くなった。ところで、なに心なく眼の前の浅い水面をながめると、役人が言った通り蝦や小魚が、水面から跳ね上がって逃げまわっている。いよいよ、鱸の活動がはじまったなと思った。万事、教えられた通りに竿を瀬の真ん中に
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