でいるのだ。日暮れ前は餌が水面下三尺ほどの位置に、日没前後には水面下一尺ほどのところにあるように、錘を加減するのを忘れてはいけない。
鱸が鈎を食い込むと、竿先を水中へ引き倒すのではあるまいかと思うほど、強引に引っ張る。そのときは、もう向こう合わせで掛かっているのだ。これを見たら、いきなり水中へ飛び込んで、竿を引き抜き、そのまま河原へ駆け上がってから、道糸を手繰《たぐ》り寄せ、手網は使わないで、遮二無二河原へ鱸を引っ張り上げるのである。まあ、夕方一刻にこの釣り方で大鱸の五本や六本を釣り上げるのは、大した骨の折れることではない。季節は、夏の土用に入ってからがいいのだが、土用にはまだ一ヵ月も間のあることだから、そのとき改めて案内しよう。と、いうのである。
その後、その役人に会ったときは、もう夏の土用に入っていた。ちょうど季節がよかろうから、一度、手を取って釣り方を教えて貰いたいと申し込んだところ、いや案内したいのは山々であるが僕はいま腹の具合を悪くしていて、残念ながら川へ出られない。けれど先日説明した通りにやれば、釣りに心得ある人ならば釣れるから、やってご覧なさい。と、いう情けない言葉だ
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