件によく似ている釣り場である。娘は、富士川のときと同じ竿と道糸と鈎と目印をつけた仕掛けで釣り場に対したが、やはり父の心が娘の持つ竿に通っておらねば、川の鮎はこれを相手にせぬらしい。
 でも、懸命に辛抱しているうちに、大物が娘の竿に掛かった。途端に、プツンと道糸が切れ囮鮎と共にどこかへ行ってしまった。娘は、べそを掻いている。
 魚野川は、上越国境の茂倉岳から西へ続く谷川岳と万太郎山の裏山の谷間に源を発している。そして、南越後の峡谷を北へ向かって白く流れて二十里、この川口で大きな信濃川に合している。一つの支流ではあるけれど、水量は相模川の厚木地先あたりに比べると、さらに豊かだ。清冽の流水は、最上の小国川に比べてよいと思う。
 上流の土樽、中里あたりはまだ渓谷をなしていて、山女魚《やまめ》、岩魚《いわな》の釣りばかりであるが、湯沢温泉まで下ると、寺泊の堰の天然鮎を送ってきて放流している。石打、塩沢と次第に中流に及ぶほど鮎の育ちは大きく、川の幅も広くなるのである。このあたり景観も大きい。頭の上に、上越国境を遮る六千五百尺の中ヶ岳が、屏風《びょうぶ》のように乗りだしていて、それから北方へ八海山、
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