と伜の三人である。まず、東海道の金谷駅で支線に乗り替え、家山町を志した。大井川の中流で友釣りを試みるつもりであったのだ。
 ところが、大井川の上流地方、つまり赤石山脈の南面に連日大雷雨が続いたため山崩れが起こり、川は灰白色に濁って釣りの条件がよろしくない。それでも、せっかくここまで訪ねてきたのであるからというので、三人は流れへ竿をかつぎだした。しかし、予想したとおり釣れぬ。三人合わせて僅かに十二、三尾を釣ったのみで、二時間ばかり遊んだ末、宿へ引きあげた。
 鈴木氏が旅の慰めに、上等のウイスキーを一本携えて行った。夕食のとき、二人で差し向かいにその栓を抜くと、そのとき宿の若い亭主が訪ねてきて四方山《よもやま》ばなしをはじめ、あまりお世辞のよい男なのに、一杯さすと彼はこのウイスキーの質を賞めながら盛んにのむ。
 私らは、亭主の口前に釣り込まれて、また一杯また一杯とさしてやると、気がついたときには、四合瓶の大部分を彼にのまれてしまっているのである。彼は私らの室を上機嫌になって辞し去るとき、後刻上等の日本酒を届けると約束したが、待てども待てども彼は約束を実行しなかった。
 翌朝、金谷駅へ引き返
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