わってみもしなかった。
 ところが、私の家庭に子のないことを、私の郷里の方で大分問題としていたらしい。大正六年の秋であったと思う。私の妹が突然郷里から東京へでてきて、私ら夫妻に言うに、兄さんたちはまだ若いのであるから、ゆくさきのことなど心配にならないであろうが、故郷の老父はゆくさきが短い。いつこの世を終わるかも知れないのであるけれど、家に生まれた孫の顔を見ぬうちに死ぬのは残念だ。もし、伜夫妻にゆくさきざきまで子供がいないとすると、佐藤の血統は絶えてしまう。それを考えると気がふさぐ、などと老父はこのごろ毎日愚痴まじりに言っている。そんなわけであるから、兄さん、親孝行のために、なにか子供をこしらえるうまい思案はないでしょうか、と語って妹はしみじみするのであった。
 うまい思案といったところで、こればかりは思案のほかの問題だ。私はただ笑って妹の言葉にはなにも答えなかった。すると、ややあって妹は膝をのりだし、兄さん京都の姉はまた妊娠したのだそうです。ところで父とわたしと相談の上、兄さん夫婦には事後承諾を求めることにして、勝手なことをやってしまいました。それは、京都の姉の腹にある子供を、そのまま
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