盗難
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)苛《さいな》まれた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一生|後家《ごけ》暮らし
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)飛んで行って[#「飛んで行って」は底本では「飛んで行った」]
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一
私は、娘を盗まれたことがある。そのときのやるせなさと、自責の念に苛《さいな》まれた幾日かの辛さは、いまでも折りにふれてわが心の底によみがえり、頭が白らけきる宵さえあるのである。
結婚後、五、六年になるが不幸にも、私ら夫妻は子宝に恵まれなかった。しかし、私らはそれを悩みとも、不幸とも思っていなかった。そして、子供のない安易の生活を楽しんでいるのである。子供がほしいと切望したところで、掌ででっちあげるような訳にはまいるまい。また、欲しくないって言ったところで、産腹の夫妻は毎年産む例はいくらでもある。また世の中には結婚後二十年、二十五年と月日がたったというのに、思い設けぬ子宝を授かる人さえある。だから、まあまあ運は天にまかせろと言った気分で、別段子供のない寂しさなど味
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