七十里のところに棲むのであって、まだ漁の季節に入っていないから、漁人が持って来ないのは残念である、とお牧の茶屋の中年の女将が語った。
夜半、宿へ帰っておいしいそばを食った。半島でもこんなおいしいザルそばが食えるものかと思ったのである。
十三日朝再び京城へ帰って、その夜の汽車で外金剛の山々を志して出発した。車掌がスチームの温度を無暗と高める。肌から汗が出て眠れない。寝台車の中で寝返りばかり打っていた。朝八時半に、外金剛駅へ着いた。
駅から出ると、今まで見た朝鮮の風物とはことごとく変わっていた。今まで釜山から京城へ、京城から平壤へ、京城から外金剛の駅まで汽車の窓から見る風景は、禿山に近い赤土の地肌に、ちょろちょろと若い松が生えた甚だ痩せた感じの趣ばかりであったが、ここは赤松が緑の葉を濃く垂れてのびのびと茂っていた。さまざまの雑木も水と肥料を食べ足りたように、何のこだわりもなく、枝を押しひろげている。この間を清い水の渓流が流れている。青い淵に続いて、激しい瀬が白い泡を立てる。花崗岩の家ほどもある岩塊が、いくつともなく渓畔に転積していた。
温井里の温泉で、朝飯を食った。温泉は、砂の中か
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