いずれも眼下に眺める大同江の水から漁《と》ったものだそうだ。
 鰍魚という魚は、いままで人の話や書物などで知っていたが、実物を見て、そして味わうのはきょうがはじめてである。この日、私らの目前に運ばれたのは、長さ一尺七、八寸、目方は六、七百匁もあったろうか、全体の姿がスズキによく似ている。殊に、下あごの突き出ているところはスズキにそっくりである。背びれがいかめしく、うろこが細やかである。それに塩を振って丸焼きにしてあった。肉は淡白で味わうと、一種の濃淡が舌に残った。スズキよりもおいしい。胆《きも》は皮ハギのそれに似てそれよりもおいしく、腹の卵粒も珍賞に値《あたい》したのであった。
 小ガニは、小豆ほどの大きさである。そんなに小さいながら親ガニであるそうだ。それに薄く衣《ころも》をつけ、空揚げにした味は酒席の前菜として杯の運びをまことによく助ける。私らは、ほんとうに賞喫したのである。フナとドジョウとヒガイは内地のものにくらべて、少しは劣ると思った。それは舌に淡い、いがら味の残匂をおくからであろう。
 まだこの外に、サンチー(山至魚)という珍味があるのであるけれども、これは大同江の上流の六、
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