れていた。私が毎日釣っている若鮎に比べると、幾倍というほど大きい。十四、五匁から、二十匁近くもあろうと思われる鮎ばかりであった。私は、例えようのない興奮を感じた。
 毎年、夏になると私の村の傍らを流れる大利根川の上流で、職業釣り師が勇壮な姿を速瀬の真んなかに躍らせて、友釣りを操っている風景を想いだした。五間もある長竿で、一歩踏み誤《あやま》れば溺れねばならないほどの奔流へ、胸のあたりまで立ち込む利根川の釣りは楽しみよりも苦しみであろう。こう想像して若鮎釣りだけで満足し、大川の友釣りには手を出さなかった自分であった。
 ところが、いま見るこの友釣りは三間か三間半の短い竿で、大きな鮎が掛かっても三、四歩下流へ足を運ぶだけで、宙抜きで手網へ入れている。これなら、自分にもやれそうだ。私の胸は、異常に躍ってきた。
『おじさん、友釣りってむずかしいものだろうね』
 私は、一心不乱に釣っている老人のうしろから、こう問うてみた。けれど、老人はうるさいといったような一瞥を与えただけで、何とも答えてくれなかった。
 しばらくすると、釣れ方が遠くなった。老人は腰から叺《かます》を抜き出して、一服つけた。私は
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