あろう。
釣り餌に用いるのは普通赤蝦、車蝦、芝蝦、白蝦、藻蝦、赤蛸、飯蛸、大蛸の足、蝦蛄《しゃこ》、幽霊蝦蛄、活烏賊、イカナゴ、擬餌、芋、味噌団子、烏賊の腸、赤虫、秋の魚のブツ切りなどであるが、鯛は自然に生活しているこのほかに榮螺《さざえ》、宿借《やどかり》、蛤、浅利《あさり》、蟹、牡蠣《かき》、ウニ、ユウ、磯巾着、海藻、人手《ひとで》など、そのほか、なにを食べているか分からない。随分硬い歯、殊に大食の魚であるのだから、我々が想像もつかぬものを食っているに違いない。
餌は、釣りの役割のうち最も重要な位置を占めているのである。鯛は以上あげたような種類のものを食っているのであるから、釣り人各自が研究工夫して新規な眼新しい餌を発見して用いたならば、必ず興味ある会心の釣りがやれることと思う。
鯛釣りを志す人のために、その一般について、簡単ながら心得ともいうべきことを述べてみよう。
四季いずれの時も、鯛を釣るにはその棚《たな》つまり魚の遊泳層を心得ておかねばならない。小鯛は、普通底から半|尋《ぴろ》乃至一尋くらいが棚である。中鯛は、海底から三尋から八尋くらいのところであるが、深くなるほど次第に棚が高くなって、百尋以上になると底から、上方二十尋に及ぶことがある。しかし大鯛は、大体において底に近いところ、四、五尋から十尋以内に遊泳しているのを普通とする。餌の移動によって上下左右広い棚に活動することは、前項に述べた通りだ。冬期は底近くを好み、温かくなると次第に浮いてくるが、夜も棚が高いのである。
大鯛を狙うには、大体テンヤ釣りの仕掛けを用いる。この釣りは普通三十尋前後から以上深い海で行なわれ、深くなるほどタチが分からないで初心者は困難するが、指導者の言葉をよく噛み研究心を積んでいけば次第にタチをとることを心得るものである。タチが自由にとれるようになれば、これほど面白い釣りは他に珍しい。大鯛釣りは錘が海底につくと、まず最初に二尋乃至三尋たぐりあげる。そしてさらに静かに一尋くらい、ついで一尋、二尋と、次第々々に海タチの二割くらいと思うだけ道糸をたぐりあげて鯛の棚を探ってみるのが、賢明の方法である。
鯛の当たりには、随分複雑な変化がある。いきなり、餌をくわえて駆けだすのがあるかと思えば、ゴリゴリと餌を噛んでいる響きが指先へ感じてくる場合もある。しかし、一体に当たりは微妙であ
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