慮した方がいいね」
 こんな具合《ぐあい》に、やさしく言って貰いたかった。大空襲の東京からの野菜の買い出し部隊の殺到で、千葉県と埼玉県では、その取り締まりに手を焼いた。そこで、一人二貫目までは黙認することに定めたのであった。
 群馬県ではどうなっているか知らないけれど、子持ち女がさげて出る僅か七、八百匁程度の風呂敷など、欲をいうなら見逃して貰いたかったのである。それでもまあ、没収を受けないで娘は倖せ者の部類に入ろう。
 親戚の者が、困っているのに対し、藷や菜っ葉を少しずつ分けてやるのは、日本人の美風である。群馬県の若きお巡りさんといえど、この美風には理解がいくと思う。
 こんな場合、若いお巡りさんの融通の有無について云々したくない。お巡りさんの指導者、つまり上役の苦労人が、定規のことは定規にして置いて、味のある思いやりにつき、部下の者に噛んで含めて、日ごろの教えとしたら、どんなものであろう。
 庶民は、喜ぶであろう。一層、自制心を強めるであろう。その筋の人の、滋味ある扱いに決して、つけ上がるような人間は一人もあるまい。
 統制や、配給ということについては、政府は随分苦心していることであ
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