くなった。頑是《がんぜ》ない子供が、夜が明ければ空腹を叫ぶので、止むに止まれず親戚へお縋りに行った。そして、赤城の中腹から一里半の路のりを、子供三人と風呂敷とを提げて、粕川駅まで辿りつき、前橋中央駅の改札口を出て、やれやれと思った途端に、おいおいちょいと待てである。揚句に、この藷を置いて行け――。
彼の女は、泣きだしそうになった。
「どうぞご勘弁くださいまし、決して再び親戚から貰ってまいりませんから――この藷を置いて行きますと、うう……」
娘は微かに泣きじゃくって、子供の頭を撫でながら、哀願に努めたのである。
「……二度と再び、藷なぞ提げ回れば承知しないぞ」
「はい」
幸運にも、彼の女は許されて、まだふるえやまぬ手で、風呂敷のこばを結んだ。電車のなかでは、藷を膝の上にのせ、無上の悦楽に耽っていたのだが、お巡りさんの一喝に逢って、心は奈落の底へ転倒した。
娘に掛かり合った事柄であるから、かれこれ私が愚痴をこぼすわけではない。この場合、
「――ああそうか。親切な親戚を持っていて、お前さんは幸福だ。だがね、藷は統制品なんだよ。まあこの小風呂敷程度から、目にもつくまいがね。この次は、遠
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