るが、親戚の家は月田の村の奥の奥、赤城山の中腹にある。粕川駅から、一里半はたっぷりあろう。
 月田の親戚では、私の娘が泣きごとを申さぬ先に、それと察して甘藷を風呂敷に包んで与えた。嬰児といっても割合に体重のあるのを背中へ括《くく》りつけ、左の手に四歳になる子供を吊るようにしているのであるから、いかに欲張っても七、八百匁しか甘藷は提げられない。それでも彼の女、満悦の姿でいそいそと帰途につき、前橋中央駅の改札口をでた。
 ところが、哀れなる事件が起こった。
「おいこら、まてまて」
 お巡りさんである。
「その包のなかには、なにが入っている」
「はい」
 娘は、面喰ってしまった。
「包をあけてみろ」
「いえ、少しばかり野菜が――」
「あけなさい」
 生まれてはじめて、娘はお巡りさんにとがめられたのだ。手をふるわして、小風呂敷を開いたのである。中に、少量の甘藷があった。
「これは飛んでもない。一体、どこから持ってきた。うん」
「粕川の親戚から、頂戴してきました。子供の食べものが足りないものですから――」
「いかん、藷は移動禁止の品だ。ここへ、置いて行け」
 置いて行けといわれて、娘は蒼《あお》
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