。ところで、君はちょいちょい買いだしに歩くかね」
「ええ、電休日がくると必ず家内にせきたてられますので――」
「そこで、君たちは農村から食べものを、どんな相場で買って行くのです」
「品により相手により土地により、相場などときまったものはありませんよ。その日の運不運行き当たりばったりですよ。まあ、品物を分けていただいたその礼に、いくらかの金を差しあげるというわけになるのですから、農家から闇で買うというわけでもありませんね」
「なるほど」
「つまり、農家の親切に対し金で謝意を表するのですから普通の取引のようには行きません。ですから、家へ帰って計算してみると、随分高価な食べものもありますし、割合に安いものもあります」
「ふふん、貴公はなかなか、うまいことをいうね。ところで高価であるといっても、どの位高いのか、僕には見当がつかないが、一体八百屋から買った方が高いか安いか――」
「そりゃ、八百屋から配給を受けた方が、安いにきまってるじゃありませんか」
「そうだろうな、気の毒だね。――お礼はどんな程度に差しあげるのかね」
「まず、公定の十倍位には当たるでしょうね」
「驚いたな」
「驚くなんて野暮《
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