ん言わないで、ほんとに――あっちでもこっちでも、かすを食うんで、僕悲観しちゃったあ」
「それは気の毒だな、けれど、僕も最近ここへ疎開してきたばかりで、米や麦は愚かなこと、汁の実にする青いものさえ不足しているので、困っている最中だ」
「そうですか、それは見損なった」
 青年は、こういったからもう帰るのかと思っていると、なれなれしく、私のかけている縁側へ、私と並んで腰を下ろした。そして、古い国民服の隠しから、短く喫い残った巻煙草をだして火をつけた。
「煙草も、貴いですね」
 というのである。
「おじさんなんぞ、畑のまん中に住んでいて食べものが足りないなんて、へんですね」
「不思議なことはないのさ、足りないのは都会ばかりじゃないよ」
「実はね、私は徴用で工場へ勤めているのですけれど、根は下駄屋なんですよ。きょうは電休日ですから、食いもの探しに出かけたわけですよ。自分でこしらえた下駄をぶら下げて――」
「ふふん」
「下駄と食いものと交換して貰うという算段なんです――この近所に、誰か下駄の入用の人はありませんかね」
「僕のところに何かあれば、喜んで交換してやるのだが、生憎《あいにく》で気の毒だな
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