餌釣りには二間か二間半のやわらかくて、そして軽い竿。道糸は秋田の渋糸の十五|撚《よ》りか二十撚りを竿の長さだけつけるのである。鈎素《はりす》は磨きテグスの一厘か一厘半で、鈎は袖型の七、八分がよかろう。錘《おもり》は調節を自由にするため、板鉛を使う。そして、魚の餌にからまる振舞を、速やかにきくのに都合がいいように、道糸の途中に水鳥の白羽を目印としてつけるのである。
 餌は川虫、山葡萄の蔓虫、鰍の卵、虎杖《いたどり》の虫、柳の虫、蚯蚓《みみず》、栗の虫、蜻蛉《とんぼ》、虻《あぶ》、蝶、蜘蛛《くも》、芋虫、白樺の虫、鱒の卵、鮭の卵、川|百足《むかで》、黄金虫、蟹などで、何でも食う。
 道糸を流れの落ち込みや、瀬脇へ振り込んで下流へ流してくる途中、山女魚が餌をくわえれば、水鳥の白羽の目印が微かに揺曳《ようえい》する。そこで、すかさず鈎合わせをすれば魚の口にガッチリと掛かる。引く、引く、山女魚は渾身の力を尾鰭にこめて逸走の動作に帰るのだ。
 毛鈎の竿は、短いものが都合がいい。九尺くらいか長くて一丈一尺もあれば充分である。道糸は馬尾《ばす》糸を幾本にも撚ったもの、竿三、四尺短くつける。鈎素《はりす
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