》は上等テグスの三、四厘を二尺くらい。鈎は、鶏の襟毛、孔雀《くじゃく》の羽毛、山鳥の羽などで昆虫の羽虫に似せて巻くのである。筋さえ覚えれば、素人《しろうと》でもたやすく巻けるのである。
 チョンと瀬の水面へ毛鈎を振り落とすと、鈎が水につくかつかぬというのに山女魚は、猛然と岩かげから躍り出て飛びつく。合わせる。毛鈎釣りは、鈎合わせに早過ぎるということがない。
 釣った山女魚を白焼きにして、まだ温かいうち生《き》醤油で食べれば、舌先に溶ける。さらに田楽《でんがく》焼きの魅惑的な味は、晩酌の膳に山の酒でも思わず一献を過ごす。

       八

 史記に、支那文化黎明時代、人に穀食を教え、医薬を発見した神農は、舌をもって草を舐《な》め、その味によって種別した、とあり、齊の桓公の料理人易牙は、形の美を謂《い》わずして味の漿《しょう》を嗜《たしな》んだ、という。
 そこで、さき頃筆者が、山女魚と亜米利加《あめりか》系鱒を携え日本料理人組合会の最高幹部という仁に示し、その判別を試みたところ、ついに鑑識《かんしき》を得なかった。また、豚の肝臓をもって飼養した味品まことに卑なる川鱒と生蝦の餌で育った
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