ばかり専念して、渓水に岩魚を追う人は極めてまれだ。登山の季節にここまで遠征することを、都会の釣り人にすすめたいと思う。
 伊豆から東海道へかけても、釣り場は沢山ある。伊豆温泉の松川は、伊豆の町から一里も遡ればもう釣り場である。狩野川の上流、湯ヶ島温泉付近も魚は濃い。支流の大見川は、修善寺橋|上《かみ》手の合流点から十五、六町離れれば、大きな山女魚が深い淵に泳いでいるのを見る。丹野の方から流れ出て大見へ入る小さい渓流の年川も、立派な山女魚が棲んでいるのでほんとうに見のがせない釣り場である。
 興津川は鮎ばかりの流れではない。中流小島村付近から上流には清い流れの底を佳麗な山女魚が楚々《そそ》として泳いでいる。
 京都付近の諸渓流にも、また九州にも釣り場は沢山ある。神国|日向《ひゅうが》の美々津川の上流へは、まだ山女魚を志して分け入った釣り人は全くあるまい。
 台湾大甲渓の山女魚は、先年大島正満博士が原住民と共に銛《もり》と筌《やな》で漁《あさ》り、鮭科の魚の分布に関して学問上の報告を出したので有名である。

       七

 渓流魚の釣趣を味わうのは、大したむずかしい道具立てはいらぬ。
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