流を行なっている。だが、日本独特の山女魚が多摩川から姿を消していこうとするのは、まことに悲しむべき事実である。
 甲州へ入ると、山女魚と岩魚が多い。|甲武信ヶ岳《こぶしがたけ》の密林から出てくる笛吹川、甲斐駒の肩に源を持つ釜無川、金峰山の本谷川、御岳昇仙峡の荒川など、何れも釣り人憧憬の渓である。ところが甲州と信州の人々は、渓に毒を流して魚をとる悪い癖を持っている。先年富士見に別荘を持っている小川平吉氏が、釜無川に毒を投げ込み山女魚と岩魚を四斗樽に二、三杯もとったという噂があったが、もしほんとうであったら、もってのほかだ。
 笛吹川と釜無川は鰍《かじか》沢で合して富士川となり、俄然《がぜん》大河の相を備えて岩に砕け、滔々《とうとう》の響きを天に鳴らして東海道岩淵まで奔下し太平洋へ注いでいるが、その途中の山から出てくる幾筋もの支流では、関西系の美しい山女魚がいくらでも釣れる。
 早川、常葉川、波木井川、福士川、佐野川、稲子川、芝川など、何れの川も釣り場として好適である。殊に白根三山の雄、北岳の墨樺から流れ出る野呂川、つまり早川の上流は西山温泉や奈良田付近に素晴らしく渓流魚が棲み、そして形が
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