頭《りゅうず》の滝を落ちて中禅寺湖へ注いでいるが、ここは渓流魚釣りの練習場として、まことに好適の流れである。

       五

 上越国境は、渓流魚の巣であるかも知れない。清水トンネルの下を流れる湯桧曾《ゆびそ》川、谷川岳から出る谷川、万太郎川から越後へ走る魚野川。何《いず》れも岩魚の姿が濃い。
 尾瀬ヶ原へは、春の訪れが遅い。尾瀬沼と尾瀬ヶ原を結ぶ沼尻川、燧《ひうち》岳の西を流れる只見川の岩魚は、この頃ようやく冬の眠りから覚めたくらいであろう。片品川の本流と、根羽川には山女魚と岩魚混じりで大ものがいる。鳩待峠の方から、冷たい水を集めてくる笠科川の岩魚は、凄《すご》いほど勇敢に餌に向かってくるのである。
 菅沼と丸沼の水を集めて、金精峠から西に向かい片品川へ落ちこむ大尻川には、今年山女魚と岩魚が多かった。片品川と、大尻川の合する鎌田の村から下流は二尺に近い巨大な鱒が棲んでいて、時どき竿を引き折って釣り人をあっと驚かす。
 この付近、南の空に大赤城の聳立《しょうりつ》するあり、東には奥白根、西には武尊《ほたか》、北に燧《ひうち》岳を控えて雲の行きかいに、うたた山旅の情を惹《ひ》くもの
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