の多いのを見ると嬉しいものだ。これと反対に『はたなめ』が尠いと、鮎は違い年だということが出来る。鮎が、沖ばかりを溯って、岸近い石に歯跡を残さない場合もあるが、鮎の習性から見て、それは極めて稀なことである。

     三

 鮎のなめ跡と、誤認し易いなめ跡が汀の石にある。それは、どんこ[#「どんこ」に傍点](だぼはぜ、鯊、かじかの類)も水垢を好む魚であって、汀に近い石の頭をなめている。そのなめ跡が、鮎のなめ跡によく似ているため、これを見て、この附近には鮎が沢山いると喜ぶ場合があるが無理もないことだ。しかし、仔細に観察すると、鮎のなめ跡とは異っている。鮎は笹の葉のような歯跡を石に印するが、どんこ[#「どんこ」に傍点]は、前歯で噛んだような歯跡を水垢に残している。そしてどんこ[#「どんこ」に傍点]は、石の背面や横腹をなめない。主に石の頭ばかりをなめているから、鮎のなめ跡と区別することができる。
『はたなめ』に対して『居付なめ』というのがある。『居付なめ』の新しいのを発見すれば大いに釣れる。『居付なめ』は概して水の深いところに多い。岸に近いところにもないではないが、これは少くない。川が薄濁り
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