に濁った場合とか、夜間静かな時に出て来て岸に近いところに在る石をなめるのであるから、深いところで安心してなめているのと違い歯跡がまばらの場合が多い。溯り鮎の『はたなめ』と居付鮎の『はたなめ』とは簡単に区別し得る。溯り鮎の『はたなめ』は歯跡が短かく小さいが、居付鮎の『はたなめ』は幅が広く、丈が長い。歯跡の長さが五六寸に及ぶものを見ることさえある。
 居付鮎は、実に丁寧に石をなめるものである。底石が、黒く地肌を出す程なめ尽す。なめ尽すと、居場所を替えるから、石が真っ黒に変っているところは、もう鮎の数が少くなっていると見てよろしいのである。ところが、鮎の群が新しい水垢を発見して集り来ったところへ囮鮎を放てば、忙しい程釣れる。鮎が新しい水垢を争いなめているのであるから、他から侵入者があれば容赦なく突っ掛って来る。鈎に掛る。
 鮎は新しい垢、新しい垢と求めて移動して行くものである。腐った垢には、鮎はついていない。早春からの古い垢がついたまま、洪水がないため川底の石が、黄色になって行くのを、川が腐ったという。川が腐れば、鮎は囮鮎を追わない。食料を争う気持にならないからだ。こうなれば、友釣は万事窮す
前へ 次へ
全11ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング