豆の長津から下田港へかけては、冬の釣り場として国内屈指の地である。網代と初島の周りは、あまりにも有名だ。伊東温泉には海も川もあり、鱸も平目《ひらめ》も、鮎も山女魚もいる。修善寺温泉を中心とした狩野川と大見川の漁師は、友釣り技術においては全国に冠たりと言われているほどだ。そして山女魚もいる。
 東海道岩淵で太平洋へ注ぐ富士川本流の大鮎と、支流芝川や内房川の渓流魚は、われらの昔から楽しんだところである。興津川の鮎と山女魚はいまさら説くまでもあるまい。三保の松原が囲んだ清水港、ここには黒鯛と鱸と鰡といくらでも釣り人を楽しませてくれる。またここの釣り舟は近年大した発達を示した。外洋では、大きな真鯛も釣れる。
 静岡の安倍川と藁科川。私は、ここでも鮎と共に幾年か過ごした。久能山に近い中島の海岸で、太平洋に注ぐ安倍川の白い波を眺めながら、石持《いしもち》の投げ釣りに興じたこともあった。静岡のお城の周りのお堀で、はやと鮒を釣ったこともある。遠州掛川の奥へ入り込み、太田川へ旅したこともあった。焼津の朝日奈川でも、鮎を釣った。
 遠州の舞阪と、新居をつなぐ今切の東海道線鉄橋下で、浜名湖の淡水を求めて遡っ
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング