た鮎を葛《くず》の葉の火土《ほど》焼きにして食べた味は、永久に忘れまい。
 雍《みか》の原では、山女魚を追った。筑波のみなの[#「みなの」に傍点]川では、はやを試みた。
 尾瀬ヶ原から、只見川の渓谷へ入って、岩代国の岩魚を釣ったこともある。山形県の最上川も覗いた。荷口村の養鱒場で、美味口に奢る虹鱒《にじます》の饌《せん》も嗜んだ。
 越後の魚野川へは、遠く信州から直江津を回って遠征したことがある。上越線が開通してからは足しげく行った。小出、浦佐、堀の内を中心として八月中旬過ぎには丸々と肥った大きな鮎が、友釣り竿を引き絞るようにして掛かってくる。その支流の破間《あぶるま》川の鮎は一層麗容に恵まれている。
 信濃国もいい。戸隠の谷から出て長野の傍らで信濃川へ注ぐ裾花川に、岩魚を釣ったのはもう十年前にもなろうか。小諸の近くを流れる千曲川。ここの鮎は、数は少ないが引きが強くて面白い。北アルプス白馬の方から出てくる高瀬川に岩魚を探った夏の景色は雄大であった。草津温泉の澁峠を越えて、澁温泉の方へ渓流魚を探りながら下って行ったところ、この辺の渓にはほとんど魚の影がなく、空魚籠《からびく》を提げて帰っ
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